自律神経と瞳孔の関係性は、様々な観点から研究が進められています。今回は、兵庫県立尼崎総合医療センター耳鼻咽喉科・頭頸部外科医長を務める石川正昭先生にお話を伺いました。
石川先生は耳鼻咽喉科を専門とされるかたわら、近年は自律神経の研究にも取り組んでいらっしゃいます。AIによる電子瞳孔計「Mecara」も活用しながら、どのような研究を続けているのでしょうか。
患者の痛みに対して医師は無反応 臨床の課題に直面
――石川先生は耳鼻咽喉の分野がご専門ですが、自律神経の研究にも取り組んでいらっしゃいます。どのようなきっかけで研究を始められたのでしょうか?
大学院修了後、ドイツに留学し、約5年間にわたり内耳神経に関する基礎研究、いわゆる動物実験を中心に行っていました。帰国後は再び臨床医として患者さんと向き合う立場に戻りましたが、その際、「自分ならではの臨床研究を行いたい」と考えるようになりました。
ちょうどその頃、後輩医師が患者さんに頸部の処置を行っている場面を目にしました。患者さんは痛みに耐え、苦しそうな表情を浮かべている一方で、医療者は表情を変えず、冷静に処置を続けている。その光景に、強いコントラストを感じたのです。
そして、「自分自身も同じことをしてきた」と痛感しました。私たち医療従事者は治療を行うことはできても、患者さんが感じている痛みや辛さといった主観的なストレスを本質的に理解することは難しい。5年ほど臨床から離れていたにもかかわらず、以前と変わらない現場の光景を目の当たりにし、臨床における課題が依然として残っていることに気づきました。
血液検査で炎症反応を測定する方法もありますが、毎回針を刺すことは患者さんにとって大きな負担になります。非侵襲的で、短時間に、何度でも測定できるストレス指標はないのか。そう考える中で、自律神経機能検査に着目するようになりました。
瞳孔は自律神経の状態に大きく影響される臓器
――自律神経の研究を進めるにあたって、瞳孔の変化にも着目されたんですね。
はい。まず注目したのが心拍変動(HRV)と瞳孔対光反射(PLR)です。心臓と瞳孔はいずれも自律神経の支配を受けているため、ストレスによる変化を比較検証しようと考えました。研究を開始したのは2018年頃で、当初はアメリカ製の自律神経機能検査機器を用いて測定を行っていました。
――実際に、これまで自律神経と瞳孔の関係についてどのような検証を行い、どのような見解を持たれているか教えてください。
主に、3つのモデルで検証を行いました。
① 足湯モデル(リラクゼーション刺激)
温浴療法の一つである足湯を用い、被験者に15分間足を浸してもらい、その前後で心拍と瞳孔の変化を測定しました。
結果は以下の通りです。
心拍:ほぼ変化なし
瞳孔:明らかな変化が認められ、副交感神経優位を示す数値に変化
この結果から、心臓はストレス耐性が比較的高い一方で、瞳孔は非常に敏感に反応する臓器であることが分かりました。
② 痛みに関する臨床モデル
次に、扁桃腺炎などの手術を受けた患者さんを対象に、手術前後の痛みの変化と瞳孔の関係を検証しました。
一般的には、痛みやストレスによって交感神経が優位になると、瞳孔は散大すると考えられています。しかし本研究では、痛みが強いほど瞳孔が収縮するという、従来の理論とは逆の結果が得られました。
そこで「気分プロフィール検査(POMS)」を用いて患者さんの心理状態を評価したところ、精神的疲労が強いときに瞳孔が収縮することが明らかになりました。つまり、強い痛みによって精神的疲労が増大し、その結果として瞳孔収縮が生じている可能性が示唆されたのです。
この結果から、次の仮説を立てました。
- 痛み刺激が強まると、精神的負担も増大する
- 交感神経の活性化と同時に、副交感神経活動も高まる
- その結果、散大ではなく瞳孔収縮が生じた可能性がある
③ におい刺激モデル(精神的ストレス単独)
上記の仮説を検証するため、痛みを伴わない精神的ストレスのみのモデルとして、におい刺激を用いた研究を行いました。
約30名の被験者に複数のにおいを嗅いでもらい、瞳孔変化を測定したところ、
バラやオレンジなどの快刺激:変化なし
汗のにおいなどの不快刺激:精神的疲労が上昇し、瞳孔が収縮
という結果が得られました。
これらの結果から、瞳孔は痛みだけでなく、精神的負荷の強さにも鋭敏に反応する臓器であり、瞳孔計測は自律神経状態を定量的・客観的に評価できる有効な指標になり得ると考えています。
膨大なデータを一元管理 Mecaraを選んだ理由
――瞳孔の変化によって、自律神経の状態を多層的に評価できることがよくわかりました。石川先生は現在、瞳孔計測およびデータ解析のツールとしてMecaraを活用いただいていますが、採用に至った理由を教えてください。
以前使用していたアメリカ製の計測機器は高価で、日本ではほとんど普及していませんでした。研究費を確保することで導入できていましたが、旧型でAI解析機能もなく、海外企業とのやり取りにも限界も感じていました。
また、研究の成果をどのように社会に還元していくかという点も大きな課題でした。瞳孔が重要な指標であることは示せたものの、単発データでは解釈が難しい。大量のデータを蓄積し、多角的に解析する必要がありました。そうした中で出会ったのがMecaraです。AIによる瞳孔計測に加え、クラウド上でデータを一元管理できる点に大きな魅力を感じました。

――実際にMecaraをご自身の研究に活用してみて、どのような有用性があると感じていらっしゃいますか?
やはりデータの一元管理と、継続的な機能アップデートですね。使えば使うほど、計測ツールとしての可能性が広がっていく感覚があります。
測定も非常に簡便で、目に当てるだけ。非侵襲的で短時間で実施できるため、患者さんの負担がほとんどありません。疾患を抱えた患者さんが問題なく測定できるのであれば、健康な方が使う際のハードルはさらに低いでしょう。企業への導入においても、継続的な計測が十分可能だと思います。
現在は、副鼻腔炎の患者さんを中心に100名以上をリクルートし、数千件規模のデータ蓄積を目指しています。少なくとも4,000〜5,000件のデータを集めることで、学術的な信頼性もさらに高まると考えています。

「受診してみよう」という行動変容につなげたい
――今後のMecaraに期待していることを教えてください。
まずは、健康ツールとして社会に広がることを期待しています。企業でのストレスチェックや眠気評価、労働安全管理など、活用の幅は広いと感じています。特に交通・物流業界では、ドライバーの心身状態を把握できる指標として大きな価値があるでしょう。
医療機器としての展開には高いハードルがありますが、「受診のきっかけ」をつくるツールとしては十分に機能するはずです。Mecaraの計測結果を見て「一度病院で診てもらおう」と本人が気づく、あるいは周囲が受診を勧める。そうした行動変容が生まれるだけでも、社会的意義は大きいと考えています。
私自身も、研究成果を社会に還元するという目標に向けて、Mecaraを活用しながら研究をさらに深めていきたいと思います。
Profile

石川 正昭
兵庫県立尼崎総合医療センター耳鼻咽喉科・頭頸部外科医長。京都大学医学研究科客員研究員。慢性副鼻腔炎を中心に多数の臨床研究を行い、研究助成の採択も多数。明確な治療戦略のもと、慢性副鼻腔炎を中心とした鼻疾患を管理。独自研究として、自律神経の研究にも取り組む。

