
未病医療で、人類の幸福と健康を守る
私たち脳神経外科医は外科医の目と技を持った神経系総合医として、脳卒中やてんかん、脳腫瘍そして神経変性疾患といった、いわば 生命を左右する疾患と日々向き合っています。これらは救命・機能回復・” QOL向上を目指した発症後の治療介入が極めて重要である一方、実際には発症の遥か手前から、神経機能の低下や代謝異常、生活習慣の乱れなど、多くの「未病のサイン」が積み重なっています。医療がこの段階で確実に関与できれば、疾病そのものを未然に防ぎ、患者の人生の質を大きく守ることができます。私は、この「未病」こそが、今後の医療が攻めるべきフロンティアであると考えています。
未病は決して曖昧な概念ではありません。最新の神経科学は、軽微な認知変化、睡眠障害、ストレス負荷による自律神経の乱れ、眼球運動や瞳孔反応の異常など、可視化可能な指標を数多く提示しています。脳の脆弱性を早期に捉えることで、脳卒中の予備軍を減らし、認知症の進行を遅らせ、てんかんを含む多様な神経疾患の発症リスクを低減し、重要化予防が可能になります。
医療が「病気になり発症してから対応する」のではなく、「発症する前から」「病気になる前から」積極的に介入する体制へと進化することは、個々人の幸福に直結します。さらに未病段階での介入は、国全体の医療費を大幅に削減しうる攻めの戦略的投資でもあります。少子高齢化が進む日本において、持続可能な医療提供体制を構築するためには、未病を中心に据えた医療モデルを積極的に採用することが不可欠であり、さらには我が国から発する世界標準の医療戦略へと発展させることができます。
私は、脳神経外科医としての経験と大学における研究を通じ、この未病医療を科学的根拠に基づく「攻めの医療」として確立し、人類の幸福と社会全体の利益に資する取組を一層推進していきたいと考えています。脳と神経の健康を守る医療の未来は、未病の段階から始まっています。
太組 一朗
TAKUMI ICHIRO
