インタビュー

医療

Mecaraで未病リスクを可視化 医学博士が語る自律神経ケアの重要性

ストレスや過労、睡眠不足などによって自律神経のバランスが崩れると、心身に様々な不調が現れます。一方で、症状が深刻化する前の“未病”の段階で変化を察知し、早めにケアすることの重要性も注目されています。

今回は、産業医科大学名誉教授の柳原延章博士にインタビュー。柳原先生は、現在所長を務める自律神経バランス研究所「自律神経未病ラボ&漢方ラボ」(福岡県)で日々患者さんと向き合い、自律神経測定や漢方薬相談を行っています。自身も過労による軽度の脳梗塞を経験したという柳原先生に、自律神経と健康の関係、そして瞳孔計測機「Mecara」の可能性についてお話しいただきました。

産業医科大学名誉教授の柳原延章博士。

自然災害、コロナ禍、人間関係…複雑な社会環境がストレスの要因に

――「自律神経未病ラボ&漢方ラボ」には、どのような患者さんが来られていますか?

50〜70代の方が中心で、20代の若い世代の方も来られています。更年期障害、腰痛、膝痛といった身体症状だけでなく、不眠、気分の落ち込み、慢性的なだるさ、めまいなど、自律神経に関連する様々な不調を抱える方が多いです。

背景には、現代社会特有のストレス環境があります。自然災害の増加やIT・DX化による社会環境の変化、人間関係の複雑化など、私たちは常にストレスにさらされています。特に30〜50代の働き盛り世代では、職場での人間関係や家庭内の問題など、複数のストレスを同時に抱えているケースが少なくありません。

柳原先生が代表を務める「自律神経未病ラボ&漢方ラボ」。様々な不調を抱えた人が相談に訪れる。

実例として、コロナ禍で夜通し救急対応を続けていた40代男性看護師の方が当ラボを訪れたことがありました。自律神経のバランスを測定してみると、交感神経が極めて緊張した状態が確認されたのですが、休日を挟んで再測定すると正常値に戻っており、一時的な過労による緊張状態であったことがわかりました。

このように、自律神経の状態を客観的に把握することは、健康管理において非常に重要だと考えています。

過度なストレスが自律神経に与える影響

――自律神経失調症は、ストレス等によって引き起こされると言われています。ストレス過多によって、自律神経はどのような影響を受け、心身にはどのような変化が現れるのでしょうか?

不規則な生活習慣や精神的ストレスによって自律神経のバランスが崩れると、さまざまな不調が現れます。これが自律神経失調症です。

ストレスは、大脳皮質で感知し大脳辺縁系を経て視床下部に影響を与えます。視床下部は自律神経を司る中枢であり、強いストレスが続くと交感神経が過剰に刺激されます。交感神経系が興奮すると、ノルアドレナリンやアドレナリンといった神経伝達物質やストレスホルモンが分泌され、血圧上昇や動脈硬化、血栓形成などを引き起こしやすくなります。

また、免疫機能も低下し、病気にかかりやすくなることが知られています。重症化すると脳梗塞や心筋梗塞につながることもあり、最悪の場合は死に至ることもあるため、自律神経の乱れは決して軽視すべきではありません。

実は私自身も、産業医科大学教授就任後、ストレスと過労が原因で40代後半に軽い脳梗塞を経験しました。当時は自分では疲労を自覚していませんでしたが、仕事量が急激に増え、次第に体のだるさを感じるようになりました。そして半年後に脳梗塞を発症したのです。この経験から、自覚症状がない段階でも身体には変化が起きていること、未病の段階で対処することの大切さを痛感しました。

自律神経を整えるために大切な3つの習慣

――自律神経が乱れやすい人には、どのような特徴がありますか?

規則正しい生活習慣が保たれていない方は、自律神経が乱れやすい傾向があります。特に重要なのが、「食事」「運動」「睡眠」の3つです。このうちどれか一つでも欠けると、自律神経バランスは崩れやすくなります。

まず食事ですが、朝・昼・晩の3食を規則正しく摂ることが大切です。特に重要なのが朝食です。朝食を取ることにより副交感神経のスイッチが入り、排便を促し、さらに日中活動のエネルギーが得られます。

次に運動です。適度な運動によってセロトニンやドパミン、エンドルフィンなどが分泌され、気分を向上させます。また、運動は神経伝達や脳機能の維持にも良い影響を与えることがわかっています。

そして、毎日の健康維持に深く関与しているのが睡眠の質です。睡眠不足や睡眠の質の低下は脳や体の働きを阻害し、情動や気分を不安定にさせ、自律神経を乱す大きな原因になります。毎日決まった時間に寝起きし、朝は日光を浴びて脳にある視交叉上核の生体内時計のスイッチをオンにすることが大切です。

自律神経を客観的に評価することで未病の発見につなげる

――柳原先生のラボでは、自律神経の状態をどのように測定しているのでしょうか?

当ラボでは、新患の患者様には必ず自律神経バランス測定を行っています。現在使用しているのは自律神経バランス自動測定解析ソフトを用いた「Silmee(シルミー)」という測定器です。

このソフトの基になっているのは、福井大学名誉教授の後藤幸生氏が初めて報告した、自律神経機能のレーダーチャート式バランス評価法です。その方法を私達がさらに発展させて開発しました。心拍変動パワースペクトル解析法を用いて自律神経バランスを評価するもので、安静仰臥位と起立時の変化を解析します。測定はウェアラブル型の心電計Silmeeを装着し、タブレットの指示に従って安静仰臥位60秒間と起立90秒間を行うだけです。結果もすぐに表示されます。

自律神経バランスの計測結果の一例。交感神経と副交感神経の各々3つの項目で合計6つの指標で自律神経バランスを可視化する。

また、更年期障害チェックや疲労蓄積チェックなどのアンケートも併用しています。アンケートは過去1か月程度の状態を評価する一方、Silmeeによる測定データはその瞬間の身体状態を反映します。両者を組み合わせることで、より精度の高い評価が可能になります。

問診にはどうしても患者さんや私達測定者の主観が入ります。しかし、SilmeeやMecaraなどを用いた測定結果は客観的データです。主観に左右されず、現在の自律神経状態を数値として客観的に把握できる点は大きな意義があると考えています。

心拍変動解析とMecaraによる瞳孔解析の相関性

――Mecaraについて、特に関心を持たれた点を教えてください。

自律神経は交感神経と副交感神経から成り、それらの神経は目の瞳孔の開閉に深く関与していることがわかっています。また、自律神経は生体内の恒常性を維持するために自動的・自律的に働き、生体がストレスを受けると、それに反応して交感神経が興奮します。

Mecaraは、その瞳孔反応を約7秒という短時間で測定することができる。短時間かつ非侵襲で測定できる点は大きな利点だと思います。

また、Silmeeによる自律神経指標との相関性も高く、自律神経バランス評価として有用性が高いと感じています。実際にMecaraとSilmeeで同時測定の実証実験を実施したところ、副交感神経領域や自律神経バランス指標など複数の項目で統計学的に有意(p<0.05)な相関性が確認されました。

SilmeeとMecaraの計測結果の相関性を相関係数(r)で示したもの。いずれも相関係数0.45〜0.5近くを示しており、「やや相関あるいは相関がある」と評価できる。

これらの結果から、MecaraはSilmeeと同等レベルの自律神経バランス評価が可能だと考えています。さらに、操作が簡単で短時間で結果がわかるため、医療現場だけでなく、ヘルスケアやセルフチェック用途にも活用できる可能性は大いにあるのではないでしょうか。

医療やヘルスケア分野で期待できるMecaraの可能性

――Mecaraに今後期待していることはありますか?

今後は、糖尿病、高血圧、うつ病など、さまざまな疾患と自律神経バランスとの関連データが蓄積されることを期待しています。実際に、不安神経症の患者さんに漢方薬を処方し、その経過をSilmeeで継続測定した結果があります。症状の改善に伴って自律神経バランスにも変化が見られ、大変興味深い結果が得られました。このようにSilmeeやMecaraによる自律神経バランス測定は今後、病気との関連性についても興味が持たれます。

また、スポーツやヨガ、気功、整骨院での施術前後など、自律神経がどのように変化するのかを測定することも非常に面白いテーマだと思います。

さらに、最近の研究で糖尿病患者は副交感神経活動が低下していることを私達は報告(Diabetology International 16, 861-867, 2025)しており、Mecaraでも同様の評価ができる可能性があります。パーキンソン病では、発症の10〜15年前から便秘や下痢などの自律神経症状が現れることもあり、早期変化を捉えられる可能性にも期待しています。

――ありがとうございます。最後に改めて、SilmeeやMecaraのような機器を活用し、自律神経バランスの状態を知ることの意義についてお聞かせください。

自律神経バランスを“見える化”できることには大きな意味があります。自分では自覚症状がなくても、その変調をこれらの測定器により早期に察知できれば、生活習慣改善やセルフケアによって病気を未然に防げる可能性があります。

私自身も、多忙だった副学長時代に自律神経測定で内在活力(※)の低下を知り、生活習慣を見直すきっかけとなりました。自律神経を客観的に可視化することは、重大な病気を防ぐ第一歩になると確信しています。

※…安静仰臥位R-R間隔平均値の標準偏差つまり心拍変動のゆらぎ。

Profile

柳原延章

自律神経未病ラボ&漢方ラボ代表、産業医科大学 名誉教授、医学博士。岐阜薬科大学卒業後、大阪大学大学院、徳島大学大学院を経て、産業医科大学薬理学の助手に採用。平成12年に教授、平成26年に副学長となる。平成29年3月末に定年退職し、現在は、自律神経バランス研究所の所長を務める。同研究所内の「自律神経未病ラボ&漢方ラボ」にて地域住民の健康&お薬相談、自律神経バランス測定、漢方薬相談等にて活動中。

HP: https://jiritu-shinkei.com

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